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【TALK ROOM】あるものに命を吹き込む。地元の人を輝かせる。〜広島・鞆の浦を訪ねて〜(後編)

2024.07.17

【TALK ROOM】あるものに命を吹き込む。地元の人を輝かせる。〜広島・鞆の浦を訪ねて〜(後編)
【TALK ROOM】あるものに命を吹き込む。地元の人を輝かせる。〜広島・鞆の浦を訪ねて〜(後編)

前編では、YARN HOMEと践さん、千晴さんご夫婦との出会いに始まり、地元の方々との素敵なつながりについて聞きました。後編では、そもそも践さん、千晴さんがどんな経緯で「NIPPONIA 鞆 港町」の家守になられたのか。そして、地域に残る財産をどんな風に受け継いでいるのか。具体的な秘策を聞いていきます。

 インタビュー:2022年7月

 

関係をゼロから築くのが楽しい

 

ー 千晴さん

私は、YARN HOMEさんが日本中に眠っている素晴らしい技術を、新しいデザインで魅力的なものに昇華されているのを見て、とても感動したんです。共通の考えがあるように思いました。

 

ー 荒川

ありがとうございます。まだまだ微力なのですが、そうおっしゃっていただけると嬉しいです。

 

ー 千晴さん

それから、荒川さんと私たち夫婦には「イギリス」という共通点があることも分かり、これはもうご一緒するしかないなと(笑)。

 

ー 荒川

ブランドサイトには、私が以前イギリスで生活していたことを書いていますからね。千晴さんと践さんもイギリスにいらっしゃったんですよね?

 

 

ー 千晴さん

私たちは大学時代に留学先のイギリスで出会ったんです。そのあと東京で働いているときに再会して、結婚しました。

 

ー 荒川

お二人はどんなご縁でNIPPONIAの家守になられたのですか?

 

ー 千晴さん

結婚を機に、それぞれの仕事のこと、人生のことを考えたとき、いつか「人が集まる空間を自分たちの手でつくりたい」と考えました。古民家や地方創生に興味があって。ただ、やってみる前に世界を見ようと世界一周の旅に出まして。仕事を辞めて1年4ヶ月、現地のお家やゲストハウスを転々としながら、「衣食住」を見て感じてきました。

 

帰ってきたタイミングで運良く「NIPPONIA」を知りまして、ぜひやりたいと伝えたら、「鞆 港町」の立ち上げから参画できることになりました。

 

スタッフの柿木さん(真ん中)も最近移住してきてNIPPONIAで働かれています。

 

ー 荒川

鞆町との出会いは偶然だったのですね。もともとこちらにいらしたことはなかったと。

 

ー 千晴さん

はい。初めて来て、一目惚れしました。縁もゆかりもないところに繋いでくださった方がいて、今ここにいます。

 

ー 荒川

ゼロから関係を築くのは大変ではなかったですか?

 

ー 践さん

旅での出会いってすべてゼロから関係を築いていくんですよね。それこそ言葉も通じないような、まったく誰も知らない土地で、その都度。それを1年4ヶ月やってきたので、面白がれるようになっていました。

 

ー 千晴さん

観光ではなく、その土地での実際の暮らしや歴史を知ることが楽しくて。鞆町の方にとっても「知ってもらうことが嬉しい」という感覚があったようで、「○○さんと会ってみる?」「興味あるなら繋いであげようか?」と、次々と繋いでくださいました。どこからか突然やってきた夫婦が地元を面白がって、その結果、地元のみなさんが喜んでくださって、どんどん輪が広がっていきました。

 

 

 

あるものに新しい命を吹き込みたい

 

ー 荒川

話は変わりますが、今晩、宿泊させていただくこの「ENOURA202」の建物は歴史ある建造物と聞きました。丘の上にあり、お部屋から瀬戸内海が見渡せて、とても居心地が良いですね。

 

ー 践さん

内閣総理大臣だった宮澤喜一さんのお父様の別荘だったそうです。選挙活動の根城として宮澤さんご自身もお泊まりになっていたとか。

 

 歴史的建造物を一軒まるごと客室として楽しむことができる。

 

ー 践さん

フロントとして活用している建物は江戸末期に建てられたもので、160年ほど前は廻船問屋として、その後は保命酒の販売店として使われていたようです。このあたりは重要伝統的建造物群保存地区なんですよ。

 

フロントとして使われている江戸末期に建てられた建物。今も保命酒の看板が残る。

 

ー 荒川

宿のなかには素敵なアートが飾られています。倉庫に眠っていた船具など、いわゆる廃材から生み出したものなんだとお聞きしました。

 

ー 千晴さん

船具などがたくさん眠っている倉庫を「リメイクして何かに使えないかな?」と覗きに行って、いろいろといただいてきました。これ(写真1)はエンジンのなかった時代、船の帆を畳むために使われていた輪っかです。倉庫には何百個と落ちていました(笑)。

 

(写真1)  床の間に飾られている、輪っかでつくられたアート作品。

 

 

滑車や錨(いかり)といった船にまつわる材料が多いですね。あとは、屋久杉でテーブルを仕立てる際に出た端材で、しまなみの島を表現しました(写真2)。こちらに来て、「多島美(たとうび)」という言葉を初めて知って、一緒にアート作りに取り組んでいた広島出身のアーティストさんに相談して、なんとか表現できないかな?と挑戦してみました。

 

(写真2)左は当時の錨(いかり)や滑車を使って。右側は屋久杉の端材で「多島美」を表現。

 

ー 荒川

アイデアが素晴らしいですよね。センスも素敵です。私も、「Another YARN HOME」という新しいラインで、端材を活かしたものづくりを始めました。そういえば、「Another YARN HOME」として販売している ”ウエス(端切れ)” や、フロントでウェルカムドリンクをいただく際の ”おしぼり” も使ってくださっていますよね。

 

ー 千晴さん

インスタグラムで拝見して、「捨てるはずの布をこんな風に再利用できるんだ!」と感激しました。古民家は掃除が必須なのですが、新しい布を購入するのではなく、YARN HOMEのウエス(端切れ)を使って掃除をしています。福山はデニムをはじめとした繊維事業が盛んな町です。地域の産業について勉強するなかで、「アップサイクル※」という考えに共感しました。可能な限り、捨てずに生かしたいんです。

 

※アップサイクルとは、本来は捨てられるはずの製品に新たな価値を与えて再生すること。「創造的再利用」とも呼ばれる。

 

端切れを活用したおしぼりは保命酒とTEA FACTORY GENさんのお茶と一緒に

 

ー 荒川

ものづくりをする立場として難しいのは、「ゼロからものをつくる時点で、環境を汚しているのではないか?」という矛盾が生じてしまうこと。すでにあるものに命を吹き込み、生き返らせるというのはすごく良い考えですし、私もこれから積極的に取り組んでいきたいと思っています。

 

ー 千晴さん

エコっぽいものをゼロからつくるよりも、今あるものを生かしたいという思いは強くありますね。生産するなかで発生するものをゴミではなく、何か違うものに生まれ変えることができたらいいな。

 

ー 荒川

プラスチックゴミに対してはどんな風に考えていますか?

 

ー 千晴さん

客室には極力プラスチック製品を置きたくなくて。歯ブラシはお米からできているものを採用しています。ペットボトルではなく、鞆の倉庫に眠っていた瓶を洗浄して、その瓶に冷たいお水を入れて置いています。これはもう好き嫌いの問題ですね(笑)。

 

青色が美しい瓶は、倉庫から発掘してきたもの。リサイクル品とは思えない。

 

ー 荒川

心から好きでやっている、というスタンスも素敵ですね。

 

ー 千晴さん

過度なアメニティもやめてしまいました。理解してくださる方が多いので、最低限のものだけ。クシや髭剃りは置いていません。あると使ってしまいますから。

 

ー 荒川

私も日頃から旅をする機会が多いのですが、必要なものは持参することを心がけていますので共感します。鞆の浦というこの土地も素敵ですが、お二人が大切にされている価値観に魅了され、ファンになってしまいました。これからも末長くよろしくお願いします。

 

ー 践さん・千晴さん

こちらこそ、よろしくお願いします。